Tuesday, September 16, 2008

 

自由貿易は食料・環境危機を招く!(2)


自由貿易は食料・環境危機を招く!(2) 環境破壊を輸出するオーストラリアの自由貿易政策 アダム・ウォルフェンデン(オーストラリア)

 洞爺湖G8(先進国首脳会議)に向け市民組織「脱WTO/FTA草の根キャンペーン」が札幌で開いた国際シンポジウム報告第2回は、オーストラリアの市民組織「公正な貿易と投資のためのオーストラリア・ネットワーク」で活動するアダム・ウォルフェンデンさん。彼はオーストラリアは自国の環境を破壊しながら輸出で国を発展させ、そのことによって世界の環境を破壊していると指摘、そうしたやり方はすでに限界に来ていると警告した。(安藤丈将)


 みなさん、こんにちは。先住民アイヌの土地でお話しする機会をいただいたことを、光栄に思います。今日は食料と環境の危機が私たちに及ぼす影響についてお話したいと思います。オーストラリアでも食料・環境危機が人びとに大きな影響を及ぼしてきました。しかしながら、歴史を振り返ってみると、これは今に始まったことではありません。オーストラリア政府が新自由主義的政策への移行を進めるようになって、もう長い時間が経過しています。

◆環境破壊を輸出するオーストラリア

 オーストラリアは伝統的に貿易に依存してきました。オーストラリアは、羊毛を旧宗主国に輸出することで発展してきたので、その発展は「羊の背中」に乗ってやって来たと言われています。オーストラリアは採掘資源の輸出も盛んです。日本にも石炭などの鉱物資源を輸出しています。

 このようにオーストラリアは長い間資源に依存する形で発展してきました。しかしながら、このやり方は、資源をどんどん採掘して環境を破壊する、持続不可能な発展方式であることは明らかです。現在のオーストラリアで生産されている農産物の総量の2/3は、輸出向けです。輸出を進めれば進めるほど、水や土地といった国内の環境に負の影響を与えています。すなわち、環境の問題は、貿易や輸出に絡み合っているのです。

 最近政府が出した『環境白書』は、開墾が生態系を破壊してきたことを示しています。オーストラリアの真水の75%が農業に使用され、そのほとんどが輸出に回されています。こうした水への需要は、250万ヘクタールの農地が塩化してしまったことの主たる原因です。もし現在のような農業のやり方を続ければ、2050年には1700万ヘクタールの土地が塩害になると言われています。

 オーストラリアから各国への輸出は、世界の環境にも、市場にも、大きな影響を与えています。2005~06年に、オーストラリアは2億3300万トンの石炭を輸出しました。もしその石炭がすべて燃やされれば、5億5900万トンの二酸化炭素を生み出すことになります。オーストラリアが化石燃料を輸出することによる諸外国での温室効果ガスの排出量は、国内での排出量を超えています。したがって、オーストラリアは、国内だけでなく、燃料や食料の輸出を通して、国外においても環境問題を引き起こしていると言えるでしょう。

◆消え去る小規模農家

 食料危機は世界中で深刻な問題となっています。ところが、オーストラリア国内では、食料危機への危機感が高いとは言えません。そのような中で、オーストラリアの農業は、小規模から大規模農業へとシフトしています。大企業が農業経営に進出するにつれて、小農はますます端の方に追いやられてしまっています。

 農業の主体が小規模農家から大企業に代わっていく中で、大規模農家は国の貿易政策を自分たちに有利なように変更しています。食料の価格設定に関しても、少数の企業が強い影響力を及ぼすようになっています。

 オーストラリア小麦委員会は、影響力の強い団体です。この団体は、サダム・フセイン政権が自分たちの小麦を輸入してくれたことに対して、その報酬を支払ったと言われています。こうした大企業に支えられた組織が、価格決定に強い力を及ぼしています。

◆ 自由貿易イデオロギーの支配

 オーストラリアの前政権は、二国間の自由貿易交渉に熱心でした。すでに3カ国と協定を締結し、10カ国と交渉中です。現在ではケビン・ラッド政権に代わったものの、積極的に交渉を進めていることに変わりはありません。アジア各国とも、二国間交渉を進めています。シンガポール、タイ、中国、日本、マレーシア、韓国とは二国間協定を、ASEANとはニュージーランドを含めて三者間の交渉を進めています。

 二国間交渉では、オーストラリアは強気の立場を貫いています。農産物を海外に売り込むもうとして、強力なロビーイングをおこなっている人びとがいます。交渉相手国は自分たちで柔軟に輸入量を決めたいと考えていますが、それは自由貿易協定を続ける限り困難です。自由貿易協定のメカニズムをどうにかしていくことが、食料危機を解決するうえで重要であると考えます。

 日豪FTAは、様々な議論を呼んでいます。当初、オーストラリア政府は、この交渉には大して時間がかからないだろうと考えていました。しかしながら、交渉の中で、酪農、牛肉、米、砂糖などの産品をめぐって、調整が必要であることがわかりました。

 オーストラリア貿易産業省のサイモン・グリーンは、これまでWTOの場でやって来たように、自由貿易の推進というイデオロギーを、農業や食料においても浸透させようとしています。オーストラリアは、強い抵抗を受けているにもかかわらず、貿易交渉、特に輸出攻勢をおこなうことで、南の国への進出を進めています。

◆ 自分の生活を自ら決定する力を取り戻す

 こうしたイデオロギーを変えていく必要があります。人びとが生産のやり方や生産物の売り方を自分たちでコントロールしていくことが大切です。それを実現するための方法の一つとして、巨大アグリビジネスの力を減じて、農業を人びとの手に戻していかなくてはなりません。

 オーストラリアの農家は、長い間政府の補助金を受けて、大きくなってきました。ただ単に自分たちの農業生産を拡大するというのは、他の国で同じ仕事をしている人たちの仕事を奪ってしまうことを認識しなくてはなりません。

 2008年4月に出されたIAASTD(開発のための国際農業技術評価)の報告書では、食料生産は現在の工業化された農業によってではなく、地域に根差した小規模なものであるべきという提案がなされました。このレポートの評価は、57カ国に承認されましたが、アメリカ、カナダ、オーストラリアの三カ国が拒否しました。

 より自由な貿易、より自由な市場という考えを、食料生産にまで適用しようというのが、オーストラリア政府のもくろみです。このような自由市場を最高のものとするイデオロギーが現在支配的であり、それを如実に表しているのはG8であると言えます。それは、自由市場に任せておけば、多くの人びとの人生を豊かにし、多くの人びとに便益をもたらすという考え方です。

 私たちは貿易そのもの、経済の動きそのものに反対するのではありません。私たちが求めているのは、人びとが自分たちの生活や仕事に対するコントロールを取り戻すということなのです。
 

Monday, September 15, 2008

 

自由貿易は食料・環境危機を招く!札幌国際シンポジウム報告(1) 


自由貿易は食料・環境危機を招く!(1) 農民は生産にかかわる物事を決める権利を持っている カティン・カーサ(貧民連合、タイ)

グローバリゼーションが作り出す貧困や環境破壊に対峙して運動を進めている社会運動体「脱WTO/FTA草の根キャンペーン」(世話人・大野和興ほか)は、北海道・洞爺湖でG8(先進国首脳会議)が開かれる前夜の7月6日、札幌で国際シンポジウム「自由貿易は食料・環境危機を招く!」を開いた。タイ、オーストラリア、中国、インドの農民やNGO・市民活動家らがパネリストとして参加、それぞれの地域・国でいま何が起こっているかを報告した。以下その内容を紹介する。第1回は東北タイの農民で、貧民連合で活動するカティン・カーサさん。(安藤丈将)


みなさん、こんにちは。私はカティン・カーサと言います。私は農民で、タイの貧民連合の一員です。貧民連合は、グローバリゼーションとたたかう世界の農民運動にネットワークであるヴィア・カンペシーナ(農民の道)に加盟しています。貧民連合はタイの様々なグループから構成されています。私たちのメンバーの大半は、小規模農民です。小農たちは、自分で生計を立てる権利や何を作るかを決める権利を侵害されています。

◆自由貿易で苦しむタイの農民

タイの稲作農民は、1年間に2000万トンのコメを生産しています。そのうち、1100万トンが国内消費に向けられ、残りの900万トンが輸出されています。タイ政府はタイを「世界の台所」にするという目標を掲げてきました。そんなタイも、世界的な食料危機のあおりを受けています。米輸出国であるタイの国民は、世界の他の国の人びとと同じく、米の価格高騰に直面しています。

タイの農民は、困難な状況に置かれており、生計を立てることができません。タイは、中国とのFTA協定を結んでいます。FTAによって、中国産の安いニンニクが大量に輸入されるようになりました。このためにタイ国内のニンニク業者は生き残ることができず、政府はニンニクから他の作物への転作を農家に勧めています。政府は転作した農民に対しては最初の1~2年だけ補助金を支払いますが、それ以上は支払いをしないことにしています。

ニンニクから他の作物への転作を要求されても、長い間ニンニクを作って来た農家にとっては、技術的に容易なことではありません。また、他の作物もFTAの下に自由化されているので、これから何を作ればよいかを決めるのは難しいのです。それでは、村を出て出稼ぎをすればよいかというと、町での賃金も安くて、生計をまかなうには足りません。

こうした状況の中で、北部タイの農民は、政府に対して様々な抗議行動をおこなっています。米価が上がる一方で、農民の米販売価格は低い水準にとどまっているからです。もし新自由主義が本当によいものならば、タイの稲作農家は、もっと高い収入を得て、タイの消費者は、良質の食料を安価な価格で手に入れているはずです。実際には新自由主義の「見えざる手」によって、タイ政府は現在起きている問題を十分にコントロールできずにいます。

他方、ここ数年間、ゴム価格が高騰しています。かなり多くのタイの稲作農家が、水田をゴムのプランテーションに転換しています。それと同時に、農家は現在、いわゆる再生可能なエネルギー作物への転換も早いスピードで進めています。サトウキビ、キャッサバ、アブラヤシといった作物への転換です。タイ政府は、次の5年間で数百万ヘクタールのアブラヤシ園の造成を進める予定です。工業団地、石油化学工業の造成が目に見える形で進んでいます。水田をエネルギー作物や石油化学工場に転換にすることによって、米の生産量が低下するということが、タイのいくつかの地方で起きています。

◆自由貿易か、食料主権か?

こうした食料危機を解決するために、大国、WTO、IMF、世銀などは、もっと農業に投資をし、低開発国への食料援助を増やし、農業市場を自由化するという提言をしています。また、もっと集約的な生産に転換しようという議論もあります。これは、もっと工業型の、企業に依存した農業にしよう、より多くのGMOを使おう、より多くのエネルギーを使おう、ということを意味します。以上の考え方は、もっと深刻な食料危機をもたらすと思います。

ヴィア・カンペシーナは、世界の国々が貧しい人たちが十分な食料にアクセスできるようにするために、国内向けの生産を優先させるべきだと考えます。すなわち、食料生産の世界市場への依存を減らしていくべきです。

食料危機からの脱出とは、単に人びとが十分な食料を獲得することにとどまるものではありません。食料危機からの脱出には、食料生産者が自らの生産に関わる物事を決める権利を持つことを必要とするし、食料の分配や配分が公正な取引によっておこなわれなくてはなりません。私たちは正義に基づいた政策を進めるべきと考えます。このような政策によって、農民や消費者の権利を促進し、多国籍企業の支配を排除することができます。

農業生産に関して言えば、多様な作物を生産するようにすべきです。小規模の農家は、様々な作物を生産する農法を知っています。それによって、食事のバランスや市場における食料の余剰が確保されるでしょう。多国籍企業の影響力は、一定の制約を受けるべきです。主食を国際的に取引することは、最小限の数量の範囲内にとどまるべきです。

私たちヴィア・カンペシーナは、確信をもって言うことができます。小規模農家は、世界の食料需要を十分にまかなうことができるのです。小農民は食料危機を解決するうえで重要な位置を占めるべきです。今こそ食料主権を確立すべき時が来ています。

 

国際シンポ─自由貿易が食料・環境危機を招く!! in 札幌(予定)

国際シンポ─自由貿易が食料・環境危機を招く!!(予定)

 食料危機が広がり、世界各地で食をめぐる紛争がおこり、人々の不安が高まっています。食料の高騰は経済的弱者を遅い、飢餓と貧困の一層の拡大を招いています。日本でも食品価格の高騰が、人々の暮らしを圧迫しています。7月に日本で行なわれるG8サミットでも急きょ食料問題が重要議題として登場してきました。しかし、そこでの議論は食料危機の根底にあるグローバル化がもたらした農民の農業の破綻という根本問題には目もくれず、資本の導入による農業の生産性向上や自由貿易の推進による市場原理の徹底といったところに落ち着くのは目にみえています。

わたしたちは、いま起こっている食料危機の真の原因を明らかにし、いま何をしなければならないかを問いかけたいと思います。サミットに向け、わたしたちの声をぶつけるこのシンポジウムにぜひご参加ください。

日時 7月6日(日)12:30~17:00

場所 札幌エルプラザ環境研修室(札幌駅北口)

     ●基調提起「食料危機はなぜ起きたのか─G8が進める自由貿易の問題点」

      山浦康明(日本消費者連盟副代表運営委員)

    ●オーストラリア「自由貿易と環境問題」

アダム・ウォルフェンデ      アダム・ウオルフェンデン(公正な貿易と投資のためのオーストラリア・ネットワーク)

●タイ「タイ農業の状況と自由化」

ポンティップ・サムランジット(農村行動ネットワーク)

●フィリピン「フィリピンの状況と自由化」

ジョセフ・プルガナン(フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス)

●韓国「韓国農業の現状と自由化」

(韓国・全国農民会総連盟代表-予定)

●インドネシア「インドネシア農民の現状」

インドラ・ルビス(ビアカンペシーナ・アジア担当コーディネーター)

●日本「北海道農業の現状と自由化」

白川祥二(北海道農民連盟書記長)

参加費 800円

連絡先 フォーラム平和・人権・環境 市村(電03-5289-8222 E-mailichimura@gensuikin.org


 

G8サミット直前東京行動分科会 自由貿易が食料危機を招く !!

G8サミット直前東京行動分科会

自由貿易が食料危機を招く

食料危機が広がり、世界各地で食をめぐる紛争がおこり、人々の不安が高まっています。食料の高騰は経済的弱者を遅い、飢餓と貧困の一層の拡大を招いています。日本でも食品価格の高騰が、人々の暮らしを圧迫しています。7月に日本で行なわれるG8サミットでも急きょ食料問題が重要議題として登場してきました。しかし、そこでの議論は食料危機の根底にあるグローバル化がもたらした農民の農業の破綻という根本問題には目もくれず、資本の導入による農業の生産性向上や自由貿易の推進による市場原理の徹底といったところに落ち着くのは目にみえています。

わたしたちは、いま起こっている食料危機の真の原因を明らかにし、いま何をしなければならないかを問いかけたいと思います。サミットに向け、わたしたちの声をぶつけるこのシンポジウムにぜひご参加ください。

日 時 6月28日(土)14:00~17:00

場 所 東京都文京区春日295「アカデミー茗台学習室B」(TEL0338178306

(地下鉄丸の内線「茗荷谷駅」下車 春日通りを後楽園方面に徒歩7分)

内 容 ●食料危機はなぜ起きたのか─G8が進める自由貿易の問題点

山浦康明(日本消費者連盟)

●世界を駆けめぐる投機マネーが引き起こす食料危機

秋本陽子(ATTAC Japan)

●アメリカのバイオ燃料と遺伝子組み換え戦略

天笠啓祐(市民バイオテクノロジー情報室)

●破綻した日本の農業・食料政策

大野和興(農業ジャーナリスト)

●全体討論

◆司会 市村忠文(平和フォーラム)

参加費 500円(同日18時からの全体会と合わせた前売り券を1000円で取扱中)

連絡先 フォーラム平和・人権・環境 市村(電03-5289-8222 E-mailichimura@gensuikin.org


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